日々の症例 8 正常胸腺




8) 8ヶ月、女児。

>画像所見 : 上縦隔から右上肺野に張り出す境界明瞭な三角形の陰影がみられる。この陰影の下縁は椎体左縁まで伸びていることから、肺実質性病変は否定できる。大きな陰影にもかかわらず気管・気管支の圧排偏位はみられず、縦隔腫瘍も否定的である。
>診断 : 正常胸腺(sail sign
>解説 : 02歳の乳幼児では50%の頻度で正常胸腺が上縦隔の陰影としてChest X-pで確認できる。特に、左葉よりも右葉の拡大をみることが多く、上縦隔から右肺野に突出する三角形の胸腺陰影はヨットの帆に似ていることから、sail signと呼ばれる。下縁は上中葉間胸膜(minor fissure)で境界されることが多く、直線状になっているのも特徴的である。また、本例ではみられないが、胸腺が肋軟骨で圧排されるために生じるwave signもよく知られている。腫瘍や胸腺過形成との鑑別を要するが、気管、気管支を圧排いていないことが腫瘤性病変との鑑別上重要である。正面性の悪いChest X-pでは肺炎様に見えることがあるが、臨床所見を加味すれば診断に迷うことはない。
<メモ>
胸腺過形成(thymic hyperplasia):腫瘍との鑑別が重要。正常胸腺の形態を保ちつつ大きさが増大する。5歳以上の小児の前縦隔の腫瘤として頻度大。無治療でも加齢とともに縮小するので胸腺腫瘍との鑑別が重要。
胸腺腫(Thymoma):小児には極めてまれ。病理組織像で胸腺腫の良悪の判定は困難であり、臨床的に非浸潤性と浸潤性に分類する。

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