日々の症例 16 肺結核に対する肺虚脱療法術後




16-1) 60歳代、女性。スクリーニング


>画像所見 : 右上肺に肺結核に対する外科的虚脱療法が施行されている。肋骨と肺実質との間に含気を有する34cm大の球状物がみられ、充填物として用いられたピンポン球と思われる。肋骨骨膜の剥離(骨膜外充填術)および充填物による圧迫に起因すると考えられる肋骨の限局性萎縮もみられる。右乳房と胸筋の陰影が認められず、乳癌術後と思われる。
>診断 : 肺結核に対する肺虚脱療法術後。乳癌術後。
>解説 : 自然発生した気胸によって肺結核が治癒した経験をもとに、肺結核患者の患側胸腔に人工的に空気を注入する肺虚脱療法が1950年頃まで行われていた。その後、肺虚脱を確実にするため、外科的に胸膜外肺剥離を行い、剥離胸膜外に空気や非吸収性の液体や固体(オリーブ油、パラフィン、ウレタンフォーム、ピンポン球、自家組織など)を充填する手術が行われるようになったが、胸膜外剥離腔への充填(extrapleural prombage)では肺への穿破を合併することも多く、改良法として肋骨骨膜を剥離して、肋間筋と肋骨骨膜を含む組織を沈下させる骨膜外充填術が行われるようになった。充填物の選択にあたっては様々な議論があり、ピンポン球は患者自身が運動用具店で割れにくいものを選んで買い求めたという話も伝わっている。


16-2) 80歳代、男性。心不全で経過観察中。


>画像所見 :  右上部肋骨は切除されており、胸郭形成術後である。胸膜の石灰化も広範囲にみられる。
>診断 : 肺結核に対する胸郭形成術後
>解説 : 結核に対する肺虚脱療法として、罹患肺直上の肋骨を数本切除する胸郭形成術(thoracoplasty)が広く行われたが、胸郭の変形と晩期の呼吸機能障害が問題となり、現在では骨膜外充填法が胸腔縮小手術として受け継がれている。化学療法の進歩によってこういった肺結核に対する肺虚脱療法術後の画像を見ることは少なくなった。

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