日々の症例 72 脳塞栓症



 


72-1
90歳代、女性。 心房細動、突然の左片麻痺と意識障害

>画像所見 : 発症90分後の単純CT:右側頭葉〜頭頂葉で白質と灰白質の境界が不明瞭になっている。24時間後の単純CT : 右中大脳動脈領域に広範な低濃度域が出現しており、脳腫脹のため脳溝も消失している。
>診断 : 脳塞栓症(embolic infarction)
>解説 : 脳塞栓症の主な塞栓源としては心腔内血栓や動脈瘤内血栓が知られている。特に、心房細動では高率(十数パーセント)に左房内血栓が生じ、脳塞栓症の原因となる。中大脳動脈領域は脳梗塞(血栓性、塞栓性いずれも)の好発部位であり、臨床症状と大脳皮髄境界の不明瞭化を総合すれば、発症90分後の単純CTで脳塞栓症と診断しなければならない。脳塞栓症では出血性梗塞の合併はほぼ必発であり、厳重に経過観察する必要がある。
<早期虚血サイン(early CT sign)>
①皮髄境界の不明瞭化
②シルビウス裂の狭小化
③脳溝の狭小化、消失
④レンズ核の不明瞭化
hyperdense MCA sign

 
72-290歳代、女性。右上下肢麻痺

>画像所見 : 発症直後のCTで早期虚血サインとして知られている、①皮髄境界の不明瞭化、②シルビウス裂の狭小化、③脳溝の狭小化・消失、④レンズ核の不明瞭化、④hyperdense MCA signの全てがみられる。翌日のCTでは、中大脳動脈ほぼ全域の梗塞が顕在化している。
>診断 : 脳塞栓症(embolic infarction)

 72-380歳代、女性。脳卒中で救急搬入された。脳出血の既往あり。


>画像所見 :
来院時のCT : 左大脳基底核に帯状に低濃度域があり、古い脳出血の吸収後瘢痕と考えられる。右中大脳動脈水平部のdensityが高く(→)、新鮮な血栓の存在が示唆される。この時点では中大脳動脈領域の脳実質に明らかな濃度異常は指摘できない。
2日後のCT:右半球に広範な低濃度化が明らかとなってきた。脳回に沿った高吸収域を伴っており、皮質の出血性梗塞が示唆される。さらに、穿通枝領域にもmass effectを伴う出血を合併している。
>診断 : 出血性梗塞(hemorrhagic infarction)
>解説 : 右MCA水平部が血栓で閉塞した脳塞栓症であり、血栓自体がhigh density として確認できる(hyperdense MCA sign)。この血栓が末梢へ移動したため穿通枝が再開通し、比較的短期間で出血性梗塞を招いたものと思われる。
 
                                                    寺元記念病院画像診断センターへ