日々の症例 22 トロトラスト沈着症




 22) 80歳代、男性。

    

画像所見 : 上部消化管X線検査時のフィルムで、脾臓全体に細かい網目状の高吸収域が見られる(↑)。
>診断 : トロトラスト沈着症(thorotrastosis
>解説 : トロトラストはドイツで開発された二酸化トリウムを成分とするゾル状の血管造影剤で、優れた造影能を有するため1930年代から1950年代にかけて使用された。特に、太平洋戦争時に主として軍隊で使用された。体内に投与されたトロトラストは肝、脾、骨髄などの網内系に取り込まれ、長期にわたってα線やγ線を放出し、血管肉腫や胆管癌などの悪性腫瘍の発生リスクを著しく高めることが知られている。トリウムの半減期は1.41010年と長い。
 本例は戦傷による入院歴があり、その際にトロトラストが使用されたと思われるが、60年以上も昔のことであり詳細は不明である。患者の死亡や高齢化によってトロトラスト沈着症の患者をみることはきわめてまれになった。

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