日々の症例 116 大動脈解離  



 


116-1) 30歳代、女性。頚部違和感に始まり、胸腹部痛が高度となってきたため来院した。


>画像所見 : 
来院時のスクリーニングUS:腹部大動脈内腔にintimal flap と思われる線状エコーがみられる(↓)。
CT:単純CTでは異常を指摘できないが、造影CTでは胸部上行大動脈から腹部大動脈の内腔に線状影が明らかで、二腔性になっている。
>診断 : 大動脈解離(aortic dissectionStanford type A
>解説 : 
頚部違和感に始まり、胸痛および腹痛が高度となってきたため来院した症例である。スクリーニング的に施行したUSで大動脈解離を疑い、造影CT DeBakey Ⅰ型、Stanford A型であることを確認し、緊急手術となった。動脈硬化による内膜の石灰化が動脈内腔に偏位している場合は単純CTでも大動脈解離の診断は可能であるが、本例のように動脈硬化がない場合には、単純CTでは診断できない。大動脈解離の診療に際しては、臨床症状から本症を疑うことが最重要である。造影CTで早急に診断を確定しなければ不幸な転帰をとることになり、医療訴訟の原因にもなっている。

116-2) 70歳代、女性。背部痛で来院。

>画像所見 : 単純CTで上腸間膜動脈分岐部の腹部大動脈内に石灰化内膜の内側偏位があり(←)、大動脈解離が疑える。造影CTでは二腔性の解離が明瞭で、上腸間膜動脈は真腔から分岐し(△)、偽腔にもゆっくりとした血流が確認できる。
>診断 : 大動脈解離( aortic dissection)
>解説 : 
本例は背部痛で来院し、尿路結石を疑って単純CTが依頼された。CTでは大動脈内腔に小石灰化がみられたため、大動脈解離を疑って造影CTを追加した。
 大動脈に粥状硬化が進むと内膜の石灰化をきたす。本例のように「石灰化内膜の内側偏位」は内膜と外膜の解離を示唆しており、大動脈解離の診断根拠となる。内膜の石灰化がない場合には単純CTのみでは大動脈解離の診断は困難であり、造影CTが必須である。臨床症状から大動脈解離を疑うことが最重要で、造影CTを行って速やかに診断を確定しなければ不幸な転帰となる。
大動脈の主要な分枝が真腔、あるいは偽腔のどちらから分岐しているかをレポートすることは重要。

116-3) 70歳代、女性。頚部違和感と背部痛、血圧に左右差あり。

>画像所見 : 単純CTで大動脈弓部に石灰化内膜の内側偏位があり、 大動脈解離を示唆する所見である。造影CT動脈相と遅延相でさらに大動脈の二腔性解離が明瞭である。
>診断 : 大動脈解離( Stanford A dissection)
>解説 : 
主訴から aortic dissection が疑われ、直ちにCTを施行し、緊急入院・手術となった。大動脈解離の臨床症状は様々で、臨床症状からは大動脈解離を疑えない「診断困難例」も20%近く存在するとされている。スタンフォードA型で手術を施行しない場合の1年後の生存率はわずか5%程度である。



                                                  寺元記念病院画像診断センターへ